久保さん
あの部屋の常駐メンバーは、私とハヤシさんのほかに、もう一人増えました。
以前から出入りはあったのですが、前任部署の上司がなかなか手放さず、常駐メンバーになるまでに時間がかかっていました。
正直、それは正しかったと思います。
大切な部下を、あんな部屋に送り込むべきではありませんから。
理由は分からなくても、何か胸騒ぎのようなものを感じていたのかもしれません。
新しく加わったのは、久保さんという方でした。
久保さんもとても穏やかな方で、いつも淡々と仕事をしています。
一方でハヤシさんは、うめきやさんが登場すると、私に気持ち悪そうな一瞥を送り、久保さんを誘ってタバコ休憩に出ていくようになりました。
――一番いてほしいタイミングで、いなくなるのです。
正直、とても困りました。
私も後から外に出ると、二人がそこで私のことを何か話していたようで、なんとも気まずい空気が流れます。
気持ちは分かります。
ハヤシさんも、きっと嫌だったと思います。
うめき声は誤解だとしても、当時の私は、だいぶ様子がおかしくなっていましたから。
そりゃあ、嫌に決まっています。
一方で、久保さんは中立の立場を保つ人でした。
ハヤシさんをなだめつつ、私に対しても嫌な態度を取ることはありません。
私がハヤシさんに対して「存在感がない!」と、意味の分からないキレ方をしていたときも、笑って受け流してくれていました。
久保さんがいるだけで、場の空気が少し和らぐような存在でした。
ただ、ひとつ気になることがあります。
ハヤシさんの主張は、「未依さんが、うめいていて気持ち悪い」というものです。
では、その“うめき声”について――
久保さんは、どう思っていたのでしょうか。