派遣社員ハヤシさん
組織構成の変更により、山本さんはうまくこの部署を離れ、私は一人であの怖い部屋で働くことになりました。
どのくらいの期間、一人だったのか。
あまりの恐怖のせいか記憶が曖昧で、正確には思い出せません。
ただ、一緒に働く派遣の方が入ることになったときのことは、はっきり覚えています。
一足先に脱出した山本さんも、多少の罪悪感があったのか、
「人を増やさないと、一人じゃ絶対無理です」
と、人員確保にかなり積極的に動いてくれていました。
人を増やさない方向で話を進めようとしていた上司の前で、真顔でそう言い切ったときの山本さんの表情は、今でも印象に残っています。
冷静な口調なのに、どこかに恐怖がにじんでいました。
そして、新しい部署として動き出した頃、実際に人が増えることになりました。
今回は部署異動ではなく、新規で入ってくる派遣の方です。
つまり、他部署に行くこともほとんどなく、基本的にはずっとこの部屋にいることになります。
それは、私にとってかなり心強いことでした。
やっと、一人じゃなくなる。
そう思うと、正直かなりほっとしました。
そして、いよいよ派遣の方が初出勤する日。
朝からそわそわして、落ち着きません。
待ち遠しい気持ちと、どんな人が来るのかという緊張が混ざっていました。
朝礼が終わり、いくつか事務作業を片付けた頃、
部長に連れられて、その方がやってきました。
名前は、ハヤシさんです。
見た瞬間、正直に思いました。
なんだか、ちょっと弱そう。
なんだかちょっとモヤシっぽ・・・いやいや、強そうか弱そうかは関係ありません。
けれど、あの部屋で働くことを考えると、どうしても思ってしまったのです。
もう少し、頑丈そうな人のほうがいいのではないか、と。
ハヤシさんは、人畜無害という言葉がしっくりくるような、穏やかで優しそうな方でした。
そして実際に、とてもいい人でした。
ただ、ハヤシさんのある特徴が、後になって私を悩ませることになります。