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絶叫シンデレラと狼女④

「私たちの他には誰もいないはずなのに、大きな音が何度もして、人のうめき声が聞こえてきたの。だから慌てて逃げてきちゃったの。」 「そうそう。それに、不気味な笑い声も聞こえてきて、すごく怖かった!」 そう言って、二人は顔を見合わせます。 「エレベーターで下まで降りてから、未依ちゃんがいないことに気が付いたの。 待ってたけど降りてこないから、もしかして幽霊に襲われて気絶してるんじゃないかって思って……」 「怖かったけど……怖かったけど、助けに来たの。」 今なら、この友情に感謝して泣いてしまうかもしれません。 でも当時の私は、それよりも驚きの方が大きかったのです。 助けに来た? あの二人が? さっきの逃げっぷりを見ていた私には、それがとても意外でした。 二人とも相当な怖がりです。 それでも戻ってくるには、かなり勇気がいったはずです。

絶叫シンデレラと狼女③

 しばらくすると、エレベーターが上がってきました。 戻ってきたのは、さっき逃げていった友人たちでした。 そりゃそうですよね。 なにしろ、靴を忘れていますから。 けれど、開いたエレベーターからは誰も降りてきません。 その代わり、エレベーターの中からゴソゴソと物音が聞こえてきます。 私はそのままエレベーターを見つめていました。 すると、ドアの影から、友人二人がそろってヒョコッと顔を突き出しました。 まるでトーテムポールのように、縦に並んで。 「え……なにしてるの?」 私が声をかけると、二人はまた雄叫びを上げました。 「み……未依ちゃん、大丈夫だったの? さっきの……」 「ああ。うん、大丈夫。」 「未依ちゃん、なんで逃げなかったの?!」 「え、仕事あるし……?」 私にとっては、ただそれだけの理由でした。 けれど、友人二人はまだかなり怯えている様子でした。 「私たち、さっき……」 そう言って、二人はさっきの出来事を話し始めました。

絶叫シンデレラと狼女②

 「うぅーーーー」 うめくような声が、部屋の中に響きました。 その瞬間、Aちゃんがびくりと体を震わせて言いました。 「何の音?」 するとBちゃんが周りを見回しながら言います。 「え?誰かいる?」 Aちゃんは耳を澄ませながら、 「音というか……これ、声……」 と言いかけました。 その言葉が最後まで出る前に、二人は同時に絶叫を上げました。 そして、転げるようにして部屋から逃げていったのです。 Aちゃんは、いかにもOLらしい、少し背伸びしたおしゃれな服に高いヒールを履いていました。 それなのに、その走りはまるで陸上選手のような見事なフォームです。 一方、Bちゃんはというと、腰を抜かしかけているのか、ほとんど四つん這いの状態。 それでも驚くほどのスピードで走っていきます。 まるで狼女のようでした。 その光景を見た瞬間、私は怖さが一気に吹き飛んでしまいました。 気づくと、声を出して大笑いしていました。 たぶん、この感覚は少し説明しにくいかもしれません。 例えるなら、ホラードッキリを仕掛けられて、怖がって逃げる人を見ている側のような感じです。 ひとしきり笑ったあと、ふとエレベーターの方を見ると、床にAちゃんのパンプスが転がっていました。 高いヒールのパンプスです。 ということは—— 彼女は片方のパンプスが脱げた状態で、あのスピードで逃げていったということになります。 しかも、あの陸上選手のようなフォームで。 そう思うと、またおかしくなってしまい、しばらく笑いが止まりませんでした。 そんなふうに笑っていると、エレベーターのドアが静かに開きました。

絶叫シンデレラと狼女①

 新しい部署ができてから、あの怖い部屋で仕事をする時間は、私一人になることが増えていきました。 その部屋にいるようになってから、しばらく経っていましたが、次第に強い疲労感を感じるようになっていました。 それまでは休み時間になるとカフェスペースに降りていたのですが、いつの間にかその元気もなくなり、休み時間もその部屋でそのまま過ごすようになっていました。 長くその部屋にいると、相変わらずいろいろな怪奇現象は起きます。 ただ、不思議なことに、私はかなり慣れてしまっていました。 そんなある日、友人が二人、心配して休み時間に私のところへ来てくれました。 久しぶりに誰かと話しながら過ごす休み時間は、とても楽しく、友人たちの優しさや愛情を感じて、私はとても幸せな気持ちになっていました。 やがて休み時間も終わりに近づいた頃です。 突然、 パン!! と、手を叩いたような音が部屋の中で鳴りました。 私は、とっさに「友人たちを怖がらせてしまうかもしれない」と思いました。 それと同時に、この音が本当に聞こえているのかも気になりました。 すると友人が驚いたように言いました。 「え?!今の、何の音?」 どうやら、私だけではなく、はっきり聞こえていたようです。 そのあとも、壁を叩くようなドン!という音や、破裂するような音が、続けて聞こえてきました。 だんだんと友人たちの表情がこわばっていきます。 そしてそのときです。 「うぅーーーー」 あの、うめくような声が聞こえてきました。 ――うめきやさんの登場です。

新規の部署

 その部屋で仕事をすることが長くなってきた頃、そのプロジェクトが改めて新規の部署として動くことになりました。 それまでは私たちは出向として集まっていましたが、今度は完全に新しい部署です。 そうなると、本当にその部屋だけで働くことになります。 驚いたことに、山本さんはメンバーから外れていました。 これはあとから聞いた話なのですが、山本さんは何もかも怖くて本当に嫌で仕方なく、どうにか外して欲しいと以前から懇願していたそうです。 怖いのは私も同じでしたが、ひとつ違うのは、山本さんは私のことも怖かったということです。 山本さんから見た私は、 時々ハッとしたように振り返って何もないところをじっと見ていたり、 山本さんが普通に仕事をしているのに「今のなんですか?!」と突然怯えた様子で周囲を見たり、 他に誰もいないのに一人で誰かに返事をしていたり、 誰もいないところを見て嫌な顔をしていたり…… などなど、何かを察知しているような様子がとても怖かったそうです。 また、前回の話のように、時々ヘラヘラしながら霊の話をしてくるのも、とんでもなく怖かったそうです。 私のことも怖かったなら仕方ない、と思いました。 言い訳をさせてもらうなら、私がそうして反応したり山本さんに話したりしたことはほんの一部でした。 それだけ、その部屋ではおかしなことがたくさん起きていたのです。 けれど今思えば、気が付いても同室の方のことを考えて黙っているという気遣いがあればよかったのに、と感じています。

キムタクな幽霊

 私たちが夜帰る時は、毎日似たような感じでした。 危ない感覚が高まってきたら、大急ぎで仕事を片付け、帰り支度を始めます。 この一連の作業は、山本さんと私とで阿吽の呼吸で、同じ頃に帰るようになっていました。 ですが、あとあと山本さんから聞いた話では、私が大慌てで帰ろうとしたときに一緒に部屋から出ないと、その後、必ず怪奇現象が起きるため、山本さんはわけもわからず急いでいたそうです。 さて、そんな怖い帰り支度の時間、全速力で仕事を片付け、帰り支度を整えました。 よし帰れる!と山本さんを見ると、山本さんも仕上げており、早くも出口に向かおうとしています。 私も急いで出口に向かうと、誰もいないはずの背後から足音がしてきて、ついてこられているのが分かりました。 急いでエレベーターに乗り込み、閉じるボタンを連打。 いつになく私が必死なので、山本さんもドン引きです。 すると、 「待てよ」 と男性の声が聞こえてきました。 そんなキムタクみたいなこと言われても、嫌なものは嫌です。 連打がようやく効いて、エレベーターが閉まり、下に降りていく間、私は顔色の悪い山本さんに話しかけました。 「『待てよ』だって。嫌ですよね(笑)」 だんだんと慣れてきた私はヘラヘラと笑っていましたが、山本さんは、もはや引きすぎて言葉も出ないのでした。

うめきやさんのこと

 山本さんは、霊の声が「聞こえるタイプ」の人でした。 そして、特に子どもの霊に好かれやすい体質だったため、子どもの霊をとても怖がっていました。 そんな中で、私があの部屋で一番怖かった存在がいました。 それが「うめきやさん」です。 うめきやさんは、女性の霊でした。 彼女は、夜になると現れます。 まず、「パン!」というラップ音が数回鳴り始めます。 すると、部屋のどこか、少し離れた場所から、うめき声が聞こえてきます。 そして、その声はだんだんとこちらに近づいてくるのです。 うめきやさんは、途中で止まることがありません。 ですから「仕事のキリがいいところまで待ってほしい」と思っても、もちろん待ってくれるわけではありません。 そのため、かなり近くまで来られると、私は仕事がどれだけ中途半端でもそのままにして、いったん部屋の外へ出ていました。 そんな日々が続くうちに、私はだんだんと恐怖感がバグってきました。 あるとき、私は山本さんにこんな話をしました。 「うめきながら近づいてくる人がいるから、いつも逃げてるんですけど…… あれって、逃げないでいたら、近づいてきた後ってどうなるんですかね?」 私がヘラヘラしながらそんな話をすると、山本さんは怒ったように言いました。 「そ、そんなこと、笑いながら言うことじゃないでしょ!」 私は、彼女がどうしてそんなに怒るのか分かりませんでした。 ですが、その理由は、意外なところから明らかになっていったのです。